軍港めぐりでの発見
天気が良い秋の休日。神奈川県横須賀市のYOKOSUKA軍港めぐりに行ってきました。YOKOSUKA軍港めぐりとは、海上自衛隊の横須賀基地がある汐入桟橋から小型船で港を回るものです。海上自衛隊の潜水艦や護衛艦、アメリカ海軍のイージス艦を見ることが出来ます。毎日違う風景、港の光景を見られる上に、かなり接近して船に近づけるので映える写真をたくさん撮ることができます。今回のお目当ては原子力空母 ロナルド・レーガンです。
軍港めぐりの最大の特徴は専属のガイドさんがいることです。艦船の名前、船の役割、歴史などを生で解説してくれます。つまり台本を読むのではなく、時々に合わせてまるで実況中継のように語ってくれます。マイクを片手に話す様子は、千葉県の遊園地アトラクションを思い出していただければいいでしょう。ジャンブルクルーズは子供はもちろん、大人にも大人気です。軍港めぐりのガイドさんは楽しい時間を演出してくれます。どう楽しいのかと言いますと、ガイドさんに寄って話の内容や進め方が違うのです。台本がないので当たり前なのですが、独特のリズムだったり、個性があふれていて、同じ人でも毎回少しずつ変化があります。今回は軍港めぐりのガイドさんから、人前で話す際に役に立つポイントを盗もうと思います。
【ひとりでしゃべり続ける】
ホームページによると男女合わせてガイドは10人ほどいるようです。彼らは45分間、立ちっぱなし、しゃべりっぱなしです。体力も必要そうですが、男性だけでなく女性もおり、若い人からベテランまでメンバーは様々です。様々と言えば、お客さまも子供からお年寄りまで多様です。どんな人が何人乗るかわかりません。歴史や自衛隊に詳しい人、船が好きな人そうでない人と、その時により属性は違います。しかもお客さまは質問しませんから一人でしゃべり続けなければなりません。それでも楽しんでいただかなくてはならない。ちょっとプレッシャーです。大勢の人の前で話す時には、できるだけ全員が理解できる内容で、また納得感があるように、さらには「来てよかった」「学びや気づきがあった」と思ってもらいたいですよね。ただ、興味があっても無反応の人はいます。うなづきさえありません。わかってもらえているだろうか・・・不安は募ります。反応しない人に話しかけるのは、どんなに話がうまい人でも苦労します。ですからできるだけ反応させるようにするのです。クルーズには仕掛けがたくさんありました。
【言葉の仕掛け】
お客さまは、同行者とおしゃべりしたり、写真を撮ったり、それぞれに行動しています。そんな人たちに耳を傾けてもらう、惹きつけるテクニックとはどんなものなのでしょうか。ガイドさんが駆使していたのは次の3つです。言葉遣い、話の流れ、最新情報です。お客さまのお目当てはアメリカ軍の原子力空母ロナルド・レーガンだと最初に言いました。空母は昨今の有事に備えて韓国やフィリピンに出航し、久しぶりに横須賀基地に戻ってきていました。空母を横須賀で見たい!というお客さまがたくさんいたと思うので、それは絶対に外せません。そうした中、「空母の中には、日本の護衛艦では決して見られない”あるもの”があります。それはなんでしょうか」とガイドさんからクイズがでました。答えは”スタバ”「船の中には生活に必要な全てのものがありますが、スターバックスがあります!」と教えてくれました。 クスっと笑える希少情報でした。クイズ形式は答えなくても脳が参加しますからとても良い方法です。そして立て続けに出てくる次のような言葉遣い。
“けたはずれの、大変珍しい、ここにしか、きょうしか、今回が最後”と、 これでもかと希少価値を連発します。あまり盛りすぎてウソにならないように、ちゃんと「一説によると最後です」や「もしかしたらですが」などとエクスキューズされていることもさすがと言えます。このように「きょうここに来た人がどれだけ幸運であったか」を言葉を尽くして盛り上げる。どうですか?勉強になりますね。
【主導権を握る】
さらによく聞いていると、次のような表現が目立ちます。「さぁ見えてきたのは・・・」「ここで写真を撮り、次は右をご覧ください」さらに、「のちほどもう一度近づくタイミングがあります」などの行動を指示するコメントです。これにより私たちは、勝手に行動できなくなります。ガイドさんの指示通りに動くことになり、話に耳を傾けることが重要な行動となっていきます。まさにガイドですから、当たり前でしょうと言われればその通りです。しかし、常に主導権を取って話を進めていくことは、一人で話したり、長い時間を共有する会議体に有効です。さらに惹きつける方法としては、次から次へと流れるように指示を出すことです。あっちを見たり、こっちで写真を撮ったり、今度は後ろを見たりと忙しくしてもらう方がいいのです。ガイドもお客様も一緒に集中できますね。
【最新情報を盛り込む】
毎日、同じ護衛艦やイージス艦が同じ場所に停泊しているわけではないため、流れを作るのはなかなか大変です。何も話すことがないこともあると思います。そんな時は、小話や失敗談を盛り込んでいるようです。今回は小話として、浦賀水道の話をしていました。日本近海ではタンカーや貨物船など大きな船が入港する際には水深が必要です。航路の深さは浦賀水道が23メートルと深いため、大型船はこの航路を通るとのこと。「自動車運搬船やタンカーはもちろん、ゴジラも通ります。映画で『ゴジラ浦賀水道を通過!』などのセリフが思い出せますか。少々マニアックですが・・・」などのお話がありました。11月3日から公開されている『ゴジラ-1.0』を最新情報を織り交ぜた優秀テクでした。ちなみに前回は若いガイドさんで、自分の失敗談で笑いを取っていました。
【見たことを言葉にしよう】
見ているものをそのまま言葉にすることは大変よい練習になります。原稿を暗記しなくてもよいからです。次に何を話すんだっけ?と忘れるのが不安だという人もいるでしょう。でも見ているものを話すならその心配はありません。野球や競馬の実況のように話す必要はないので、ゆっくり、落ち着いて言葉にできるように練習しましょう。そうそう、見たことを言葉にするのは様々な訓練になります。人に話すだけでなく文章にすると気づきがあります。短くても日記を書くことなども良さそうです。さて、軍港巡りは終わりになるころ、お土産の案内があります。チケットが抽選券になっており、船を降りたあとも何かが当たるお愉しみがついています。私はまだ一度も当たったことがありませんが、何がもらえるのか。妄想するだけでも楽しいです。ただ、発表はその時ではありません。「お土産売り場に張り出してありますので、ぜひ寄ってください」とのアナウンス。お土産売り場へ誘導するためのイベントですが、ここでもしっかり行動を指示されました。(了)
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